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2010年8月31日


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平成22年6月25日に稲葉繁先生が、日本老年医学会、名誉会員証を授与いたしました。

稲葉先生は日本老年医学会の理事を25年勤め、その間の4年間理事長として尽力してまいりました。

2000人の会員の中でもこの名誉会員証をいただいている方は10名ほどしかいない、まさに名誉ある証です。

「今後も日本老年医学会の向上発展のために精一杯努めてまいりたいと思います。」(稲葉繁)

 

この記事は、1982年6月号の家庭画報に掲載された対談です。

稲葉繁先生が、日本歯科大学第2講座助教授時代に「専門医への質問状」というコーナーで答えたものです。

まだ「顎関節症」という言葉がなく、「咬合病」と呼ばれていました。

稲葉先生はそのころから「かみ合わせ」について研究してきました。

1982年当時、記事の中で稲葉先生は

「咬合病時代が新しい分野ですからね。ここ10年なんですよ、やっと研究が始まったのですが。歯科医のなかでもわからない人もいます。その辺は今後の医学に期待してください。」

と話しをしています。

その後、顎関節症の勉強をするためにドイツに留学しシュルテ教授のもとで学びました。

今後の医学に期待の言葉通り、顎関節症で悩んでいるたくさんの患者様を治し、現在に至っています。

その1982年の記事は現在の顎関節症の悩みに答えたものです。

ぜひ、読んでみてください。

 

「専門医への質問状」

頭痛・腰痛も起きる歯の病気「咬合病」

頭痛、首筋のはり、腰痛などに悩むあなた。

ひょっとして歯のかみ合わせが悪いのでは・・・・。

物を噛むというのは顎を上下、左右、前後に微妙に動かす動作。

ちょっとバランスがくずれると、全身のあちこちにさまざまな症状が現れることがあるといいます。

今月は、今注目されつつある「咬合病」です。

◆悪いかみ合わせで歩き方までかわることが

肩こりや頭痛などの不定愁訴の原因に、かみ合わせの問題があるとうかがいましたが・・・・。

「ええ。私たちは咬合病」と呼んでいます。歯が物を噛む時には、上下だけでなく左右前後に微妙に顎が動いているんです。ところが、歯のかみ合わせが悪い と、顎に加わる力のバランスがくずれてしまいます。それで、歯やこれを支える歯槽骨、筋肉、顎関節、その周囲の組織、器官、神経、血管などに異常が起こる わけです。それが原因で、全身にさまざまな症状が現れるのが咬合病です。」

どのような症状があるのでしょう。

「思いもかけない痛みの原因になっています。歯痛や顎関節の痛み、口が開きにくいなどという症状は安易に想像がつくと思います。ところが、鼻の周囲がつ る、耳の後ろの筋肉や首筋がはる、さきほどご指摘の頭痛、肩こり、手のしびれ、舌のヒリヒリした痛み、灼熱感、それに腰痛まで起こることもあります。」

顎の関節のゆがみが、どうして腰痛まで起こるのですか。

「簡単にいいますと、頭の位置の問題なんです。人間の頭は、肩から垂直に立っているでしょう。これをバランスよく支えているのは、脊柱です。ちょうどサク ランボを逆さにしたような形ですね。それが、顎関節のバランスがくずれると、筋肉や力の不均衡などによって頭まで傾斜してしまうんです。で、これを脊柱が 頑張ってもとに戻そうとする。すると脊柱が変形するというわけです。 腰痛だけでなく、歩き方まで変わるのですよ、背骨が曲がって」

◆かみ合わせが原因とはわかりにくい。

すると、症状から原因を判断するのは、なかなかむずかしいのでは・・・・

「そうなんですよ。ちょうど、内科と歯科の境目にある病気なんですね。ですから、歯科に行きあたるまでが、たいへんむずかしい。腰痛で歯科医を訪れる人 は、まずないでしょう。 私のところに来る患者さんも、ほとんど、整形外科や耳鼻科、内科を回ってきた人たちです。なかには、人間ドックにまで入って検査 を受けたけれどわからなかったという人もいます。  これが、また病気の精神面と大きく関係してるんですよ」

というと、心身症とも関係があるのでしょうか。

「そのとおりです。咬合病の患者さんには精神的に不安定な人が非常に多い。CMIという健康調査を行うと、憂鬱、希望がない、自殺したい、怒りやすいなど という結果が出る人がほとんどです。  そのうえ、さきほど申し上げたように痛みの原因がわからないでしょう。ノイローゼぎみになってしまうんです。これ はガンじゃないか、何か悪い病気の兆候じゃないかと、一人でクヨクヨ思い悩んでしまうんです。それでますます精神状態が悪くなるのです」

精神的な問題が咬合病を引き起こす引き金になると・・・・。

「いえ、それはニワトリと卵のようなもので、どちらが先とも言えません。 しかし、私の考えでは、病気によって心のゆがみも起こるのではないかと思いま す。歯のかみ合わせを治して症状がよくなると、精神状態もよくなりますから。 それから、原因不明の痛みに対する恐怖感ですね。ある奥さんは、舌がヒリヒ リ痛むのでお医者さんに行ったのですが、原因不明。それで舌ガンではないかと夜も眠れないほど悩んでいたのです。  ところが、私のところで咬合病だとわ かったとたん、気分がすっきりしたと言っていました。こういう人はとても多いのです。患者さん自身がまるで歯科に対する知識がないでしょう。説明だけで、 たいてい晴れやかになるんですね」

◆20歳前後と50歳前後の女性に多い

内科や整形外科では診断できないのですか。

「咬合病自体が新しい分野ですからね。ここ10年なんですよ、やっと研究が始まったのが。ですから歯科医のなかでもわからない人もいます。その辺は今後の医学に期待してください」

では、自分で咬合病かどうか、判断する方法はありますか。

「あります。歯のかみ合わせが悪くなる原因は、悪い歯並びや歯の高さの違いにあります。つまり、抜けたまま放置しておいて歯並びが悪くなったとか、親知ら ずだけ背が高い、あるいは治療のしかたが悪くて、歯の高さが狂うとか。かみ合わせたときにどこかが他の歯より早くあたってしまうのが原因です。  という ことは、その部分の歯があたらなければ、咬合病の症状も出てこないということです。 ですから、一週間ぐらい大豆大の綿を唾液で濡らして歯の上に置いてお くのです。それで症状がよくなれば咬合病ですね。 それから、咬合病は20歳前後と50歳前後の女性に多いんです。50歳前後の人はちょうど更年期と重な りますから、更年期障害と間違えないことですね」

家庭でも治療できますか。

「重症なものは無理です。根本的にかみ合わせを治さないと。 けれど、顎関節がズレている人、つまり潜在的な咬合病の人は非常に多いんです。こういう人 は、まず真っ直ぐあお向けに寝ること、硬いものや大きいものを食べないこと、頭が水平になるように低い枕を使うことです。歯ぎしりをする人は特に要注意で すね。  それから、治療というのは、医者と患者が半分ずつ責任を負うことです。私たちも心身両面から治療をしますから、患者さんの方も協力していただか ないと」

2010年8月26日

日本歯科新聞に掲載された記事をご紹介します。 20年以上前の新聞ですが、「高齢化先進国」についてかなり詳しく書いてあります。

今まさに日本が直面している高齢者社会を予測していた内容で、非常に興味深い内容です。

ぜひ、読んでみてください☆

 

我が国で初めて「高齢者歯科」を設けた日本歯科大学前教授がドイツ、イギリス、スイスなどヨーロッパの歯科事情を視察し、我が国の歯科医療の現状を踏まえて所感を語りました。

根本的に違う老人対策

日本で初めて高齢者歯科の診療科目ができ、わたしの専門は、この高齢者歯科となったが、これから日本は高齢者がどんどん増えてくる状態なのに、医療面では手探りの状況下にある。

そこで、高齢化社会の先輩であるヨーロッパを今回、視察してきた。ヨーロッパは長い歴史をかけて、高齢者が増えてきた。

フランスは全人口の7%が65歳以上となってから14%になるまで125年かかったといわれている。

一方ドイツでは50年ほどである。日本ではわずか26年である。このため、これから高齢者にどう対応するか手探りの状態だ。そこで、ヨーロッパでは、学生教育がどうなっているのか。あるいは在宅診療がどうなっているのか調べたいと思ってきたわけである。

わたしは、イギリス、ドイツ、スイスの3カ国を回りもう一人鈴木正直講師がフィンランドへ行った。

人口6千万人の小さな国であるが、高福祉が進んでいる。

日本はどちらかというと、社会の構成が団体的だ。フィンランドは個人単位である。このため日本としてもかなり参考にすべき点もあると視察することになった。アンケートもとってきた。まだその結果はでていない。

ヨーロッパには、高齢者のための国際的な学会がある。そこで、高齢者を専門にやっている先生に会って話を聞いてきた。また老人の施設も見てきた。

日本とヨーロッパでは根本的に違うことを、今回、改めて認識した。日本の場合、医療や技術、ハード面の器械類はとても進んでいると思う。世界的にもトップレベルにあるといえる。そこで、ハード面施設面ではそれなりに医療を行ってきている。

しかし、老人の治療はそれだけではダメで、つまり、病院を作るにしてもその周辺の施設がどうであるかが問われる。病院では、1日45分のリハビリしか、健康保険で許されていない。

寝た切り老人の原因となる大きな問題は、脳血管障害である。ヨーロッパでは一番の原因は骨折だ。大事なことは脳血管障害となったらそのあとのケアーをできるだけ早くし、寝たきりにさせないことである。

リハビリをして、体を動かして治療をするわけあるがそれを日本では、病院の中だけでやろうとする。一方、患者の生活の場はベットの上だけだ。どうしてもベットの上に寝てしまう。食事もベットの上だけだ。本来なら食堂があればよいが、それがない状況だ。

ベットの範囲しか生活の場がない。当然寝たきりになりがちだ。介護されると気持ちの上でも楽になってしまう。ヨーロッパでは寝たきりにはさせておかない。無理して起こしてしまう。

そして、ベット以外の老人たちの談話室や外に散歩する道もたくさんある。その中で、自分に課せられた運動を一生懸命やっている。できるだけベットにいる時間を少なくするようにしている。このため寝たきり老人はほとんどいないわけである。

高福祉化で医療が低迷

ドイツでは、高齢化歯科は併設されていない。しかし、軍隊があるので、訪問診療、出張診療には慣れている。ハンディーな治療器具も整っている。また日本と違ってホームドクターという制度があるため、診療所を患者さんが渡り歩くということもしない。

そこでホームドクターの役割は、一生その患者さんの面倒をみることになる。日本は、その患者さんが寝たきりになったらどの医師が診るのか決まらない。ホームドクター制度がないので、かかりつけの医師がいても、なかなかいない。

日本は近いとタクシー代が出るが、ドイツは反対に40キロ超えるとタクシー代がでる。ホームドクターが近くにいるから40キロ以上の特殊なケースしかタクシー代がでないのだ。

また日本では予防に保険の報酬が払われない。スイスの場合は。予防にしか保険が支払われない。補綴はすべて自費だ。

日本のように薄く、広くバラまくという考えはよくないと思う。特に、その点イギリスは悪かった。ナショナルヘルスサービスで揺り籠から墓場までという高福祉を行った。

あれは、歯科医にとっても評判がよくなく、患者さんにとっても好ましくなかった。財源がなくなったために、歯科は25%給付で、75%が自己負担だ。

日本は評価が低く、すべて保険なので、がんじがらめである。しかし、イギリスを見てきて、日本は良い国だと思えるようになった。つまり、日本ではまだ、患 者さんに現時点で最高の治療をやろうと思えば、できる余地がある。つまり、保険がきかなければききませんよ、という余地がある。医療とは、現時点で最高の 治療をやるべきだ。

保険だけというのは、技術の出し惜しみである。やってあげたくてもやってあげられないのが保険診療でのジレンマだ。イギリスでは高福祉で広くバラまいたためできない。患者さんが、健康に対する価値観さえ持てば、やれる余地が日本にはまだある。

日本は民間保険を国が認めている。歯科医にとって光が見えてきたと評価したい。民間保険を必要としないというケースでは、歯科医と患者さんとの信頼関係で行う。

予防で実績高いスイス

スイスは予防に熱心で、子供から徹底的に努めておりむし歯は10年前の75%減少した。賛否両論があると思うが、これはフッ素によるものだ。まずフッ素を食卓塩に入れたそうだ。また、フッ素の錠剤を食後に噛ませた。

だから、もしむし歯になったら自費で直しなさいという考え方だ。国が予防の方向に力を入れ実績をあげたのだからあとは自分たちでやりなさいというのがスイスである。

つまり、イギリスとスイスは正反対であった。ナショナルヘルスサービスの財源はいわゆる17%の付加価値税からきているのだ。

いずれにしても、イギリスは低迷しており、スイスのような予防を主眼としたヘルスサービスにもっちきたいとの考え方もあり、多様化しつつある。

一方西ドイツでは、国際デンタルショーに参加したが、実に立派な内容であると思った。10ホールあり1回ではとても回り切れなかった。あれだけの規模のものを見ると歯科医療はまだまだ広がりを持つものだと、強く感じた。診療部門より技工部門がかなり注目されていた。

器材の流れは注目されたがドイツでは、技工部門の引き締め行われていた。全顎のゴールドブリッジが保険でカバーされていたが、テレスコープなどは1顎4本までがゴールドでできる、というようになった。

そして、その5割を患者が払うことになった。日本はまだ、そこまでもいっていない。ドイツは技術評価がとても高い。このため、歯科医も技工士もやりがいがとてもある。

日本は総義歯が13000円程度だ。ドイツとは比較にならない。日本は保険が質より量となっている。

高質の医療を追及する

日本の場合、一番問題となるのは、6か月ごとに義歯を新たに入れることができる制度となっている。

このために、生涯に多くの義歯を作り変えることになってしまう。患者さんもだから多少合わなくてもいいんだ、という考え方をしてしまう。これは恐ろしいことだ。

これよりも、たった1個の義歯でも、それがすごく長持ちをして、口の中で具合よく機能している質の高い補綴物の方がずっとよい。

ドイツ人のそのような考えによって生まれたのがテレスコープシステムだ。

安易な治療をバラまくのではなくよい治療を行うべきだ。国民の医療費が国によって決められている以上、保険医が増加をしつづけ、それを分配しているより、全然、決まっていない医療費(自費)を、よい治療をやって、患者さんに感謝されて、報酬を受けた方が望ましい。

 

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稲葉歯科医院 院長 稲葉由里子 顧問 稲葉繁

稲葉歯科医院
院長 稲葉由里子

昭和44年に父、稲葉繁(現・顧問)が文京区伝通院で稲葉歯科医院を開業、平成11年に場所を移して秋葉原で新しく開業しました。

「入れ歯が合わず、食べたいものが食べられない」
「口を開けると金属のバネが見えるのがいやだ」
「うまく発音できないので、しゃべるのがおっくう・・・」

このような入れ歯のお悩みをお持ちの方、多いのではないでしょうか。

当院では、入れ歯の本場ドイツで直接学んだ技術を活かし、つけていることを忘れるくらい、自分の歯のように何でも噛めて、笑顔に自信がもてる入れ歯を作っております。

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